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【産業動向】TSMCの先端技術漏洩、同社の「初歩的ミス」指摘も
2025-08-07 11:44:48
ファウンドリ最大手、台湾TSMC(台積電)の2nm(ナノメートル)プロセス関連機密情報不正取得事件で、情報が半導体製造装置大手の東京エレクトロン(TEL)の技術者に渡り、その後ラピダス(Rapidus)にも流れていたと2025年8月6日付の台湾各紙が報じたのを受け、台湾の著名な半導体産業アナリスト陸行之氏は同日付のフェイスブック投稿で、TSMCは直ちに東京エレクトロンとラピダスの2社に対し、法的措置を講じるべきだとの見方を示した。また、調査会社DIGITIMES Researchは6日付レポートで、台湾の半導体サプライチェーンの見方として、今回の機密漏洩は、精巧な国際的スパイ行為ではなく、内部管理の緩みと社員のセキュリティ意識の不足が招いた初歩的ミスである可能性が高いと伝えた。


台湾の大手紙『経済日報』(8月6日付)によると、フェイスブックの投稿で陸氏は、かつてTSMCの社員が退職後にファウンドリ中国最大手SMIC(中芯国際)へ移籍し、技術を持ち出すケースがあったが、今回は「技術を盗んでから日系半導体装置メーカーに渡り、その後新設のファウンドリへ情報が流れる」という新たな形態が見られるとした。その上で、TSMCに強硬な対応を取るよう進言、具体的には、東京エレクトロンに対し数百億米ドル規模の装置代金の減額賠償を求めるか、ラピダスに対し株式10〜20%を無償で提供するよう求めよとした。

ただ一方で陸氏は、東京エレクトロンやラピダスの行為が侵害に当たるか否かをどう判定するかや、それが営業秘密の不正使用と認定できるのか、さらに、「盗み見」や「利用」にとどまり、正式に量産に導入していない場合でも侵害と言えるのか等が問題になるとの認識を示した。

一方、DIGITIMESはレポートで、TSMCに詳しい台湾の半導体サプライチェーンの話として、情報の不正取得に関与した3人の社員はTSMC在職中に、いずれも中核の研究・開発(R&D)担当ではなく、権限も一般的なレベルにとどまっていたと指摘。その上で、装置の設置やトラブルシューティングの過程で、効率を優先して画面をスマートフォンで撮影するなどして、東京エレクトロン社員と情報をやり取りした可能性が高いとした。また、ラピダスの東哲郎会長について、かつて東京エレクトロンの社長を務めていた人物だが、ラピダスは米IBMの2nm技術を採用しており、装置やプロセスはTSMCと異なるとした。また、TSMCは東京エレクトロンの最大顧客であり、ラピダスのためにTSMCを裏切れば、その代償は極めて大きいはずだとして、不正取得が目的だったとする見方に疑問を呈した。

一方でこのサプライチェーンは、情報不正取得の背後に、韓国サムスン電子(Samsung Electronics)や米インテル(Intel)が存在する可能性があるとの見方に言及。両社とも表向きには2nm技術を必要としている競合ではあるが、インテルは米政府の支援を受け、さらにTSMCとも協力関係にあることから、リスクの高い窃取に踏み切る必然性は低いとの見方を示した。また、サムスン電子については、米テスラ(Tesla)と大型契約を結んだことで先端技術の進展で大きなプレッシャーを抱えてはいるが、TSMCの強固なセキュリティについては熟知しているはずだと指摘した。

DIGITIMESは、結論として、背後に不正取得した情報の「明確な買い手」が存在する可能性は低いとの見方を示した。その上で、TSMC内部において、機密データの閲覧は厳格な権限管理と装置認証を通じてのみ許可されており、無断アクセスは即座にセキュリティ警報が作動すると指摘。このことから、今回の一件は単なる「初歩的ミス」だった可能性があるとし、ミスを招いた要因として、(1)新入社員教育の不十分―大規模採用でPIP(プロセス統合訓練)が徹底されず、情報セキュリティ意識が不足していた。(2)内部統制の緩み―中核以外の社員が利便性を優先しリスクを生み出す行為に及んでいる、を挙げた。

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